東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10169号 判決 1968年1月24日
原告 児玉商事株式会社
代表者代表取締役 児玉宗重
右訴訟代理人弁護士 高橋梅夫
被告 妻鳥商事株式会社
代表者代表取締役 妻鳥カズ子
右訴訟代理人弁護士 田島良郎
主文
被告は原告に対し別紙物件目録記載の建物のうち同目録(二)(三)記載の部分を明渡し、昭和三五年九月二二日から昭和四〇年一〇月二九日まで一月金一万八〇〇〇円、翌三〇日から明渡ずみにいたるまで一月三、三平方メートル当り金二、五〇〇円の割合による金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は二分しその一を原告の負担としその余は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙物件目録記載の建物のうち(一)(二)(三)の部分を明渡し、かつ昭和三五年九月二二日から同四〇年一〇月二九日までは一ヶ月金一万八、〇〇〇円、同年一〇月三〇日から明渡済までは一ヶ月金七万六、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め
請求の原因として
「原告は別紙物件目録記載の建物を所有しているところ、被告に対し昭和三五年九月二二日同建物の内(一)記載の部分を賃貸した。その際賃料を一ヶ月金三〇、〇〇〇円と定め、特約として、被告法人の代表者を石見栄吾、長谷川禎成以外の者に原告に無断で変更した場合は無条件で本件契約を解除され明渡の執行をうけても異議がない旨定めたところ、昭和三六年八月一五日長谷川禎成が代表取締役を退任し昭和三九年三月一日被告会社は商号を妻鳥商事株式会社と変更し、妻鳥カズ子が同会社の代表取締役に就任した。そこで原告は昭和四〇年一〇月二九日被告に到達した書面で右特約に基き本件賃貸借契約を解除する旨の通知をした。被告は同建物のうち(二)(三)記載の部分を昭和三五年六月一四日から正当な権限なく占有している。よって原告は被告に対し右(一)(二)(三)記載の部分をそれぞれ明渡し、同建物のうち(二)(三)の部分について昭和三五年九月二二日から同四〇年一〇月二九日まで一ヶ月一八、〇〇〇円および同建物のうち(一)、(二)、(三)記載の部分について昭和四〇年一〇月三〇日から明渡済まで一ヶ月金七六、〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。」と述べた。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め
答弁として
「特約の効力および(二)(三)の部分につき占有開始の時期および無権限である点を除き原告の主張を認める。」と述べ、
抗弁として
「本件契約のうち特約条項は、経済的優位にある原告の一方的な主張によって設けられたものであり、その内容も社会通念に反するものであって効力がない。仮に特約としての効力が認められるとしても被告会社の同一性は役員の交代によっても害せられていないから原告の特約違反を理由とする解除権行使は権利の濫用である。本件建物の内(二)(三)の部分は同(一)の部分と共に昭和三五年九月二二日同一賃貸借契約により賃借したものである。」と述べ
原告訴訟代理人は被告の抗弁事実を否認した。
≪証拠関係省略≫
理由
一、別紙物件目録記載の建物が原告の所有であること、同建物のうち(一)記載の部分が昭和三五年九月二二日に原告と被告との間で賃貸借の目的とされその際原告主張のような特約がなされたこと、昭和三六年八月一五日長谷川禎成が代表取締役を退任し昭和三九年三月一日に被告会社は商号を妻鳥商事株式会社と変更し、代表者に妻鳥カズ子が就任したこと、昭和四〇年一〇月二九日被告到達の書面で原告から本件賃貸借契約の解除の通知がなされたことは当事者間に争がない。
二、被告は右特約条項は信義則に違反するもので効力がないと主張するが≪証拠省略≫によると右の特約がなされたのは、法人の代表者を変更することによって、実質的に賃借権の無断譲渡がなされることのあるのを防止することを目的とするものであることが認められるのであり、このような特約が直ちに信義則に違反するものであると解することはできず、右主張は理由がない。
三、原告は被告会社の代表取締役が妻鳥カズ子に変更されたことは右特約に反すると主張する。≪証拠省略≫によれば、被告会社は石見栄吾、長谷川禎成、妻鳥カズ子を主たる構成員とするもので、このことは、本件契約の成立した後も変更がなく、現在は石見栄吾、長谷川禎成も、代表取締役に就任している事実が認められる。したがって、被告会社は本件契約の際と、構成員を同一にしており右特約の趣旨に反しておらず原告が右特約違反として本件契約を解除することは許されない。
四、被告は本件建物(二)(三)記載の部分も原告から(一)記載の部分と共に賃借したと主張する。証人長谷川禎成、石見栄吉、被告代表者妻鳥カズ子の各供述は≪証拠省略≫に対比し措信し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、≪証拠省略≫によれば、本件賃貸借当時(一)の部分は原告所有土地の上にあったか、(二)、(三)の部分は橋戸ていら所有の土地の上になんらの権限なくして建てられており、土地所有者から右土地の明渡を求められるおそれがあったので右契約の締結に当り、(二)(三)の部分は貸借の目的としないで、(一)の部分のみについて賃貸借契約を結んだことが認められる。右主張は理由がない。したがって、本件建物(二)(三)記載の部分の明渡しを求める請求は理由がある。
五、原告の損害金の請求について判断する。本件建物(一)記載部分の賃貸借の解除は許されないので右の部分についての原告の損害金の請求は理由がない。
そして、本件建物(二)(三)記載の部分を昭和三五年九月二二日から被告が占有して使用している事実は当事者間に争がないのであるから原告の右部分の損害金の請求は理由がある。そして本件建物(一)記載の部分約一一・九九坪の賃料が一月三万円と定められたことは前段認定のとおりであるから、一月一坪(三・三平方メートル)当り金二五〇〇円(一一・九九坪を一二坪として計算した)となり、弁論の全趣旨に照し(二)(三)の部分の相当賃料も右と同額と認められるので(二)(三)の部分の相当賃料額は金一万八一七五円となるところ、昭和四〇年一〇月二九日までは合計金一万八〇〇〇円を請求しており、翌三〇日以降の原告主張の相当賃料額はこれを認めるべき適切な証拠がないので、一月一坪当り金二五〇〇円の範囲において理由がある。また、昭和三五年九月二一日以前の損害金については被告の不法占拠を認めるべき証拠がない。
六、以上のとおりであるから、(一)の建物部分の明渡および損害金を求める原告の主張は理由がなく、(二)(三)の建物部分の明渡を求める主張は理由がありこの部分の損害金の主張は前記の範囲において理由がある。
よって、原告の本件建物(二)(三)記載の部分の明渡の請求および損害金の請求は前記の限度において認容し、その余の請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺一雄)